
4月1日にスタートした、TBS新火10ドラマ『対岸の家事』。
主演は多部未華子さん。
多部さんが同枠の主演を務めるのは、2020年7月期『私の家政婦ナギサさん』以来。
『わたし、定時で帰ります。』などの代表作で知られる、朱野帰子さんの同名小説が原作。
メインで脚本を手掛けるのは、『25時、赤坂で』(テレビ東京系)の脚本を担当した青塚美穂さん。
そんなドラマ『対岸の家事』の第1話ネタバレあらすじ解説と感想をまとめてみました。
もくじ
『対岸の家事』第1話ネタバレあらすじ解説
専業主婦の詩穂。仕事と家事育児の両立を目指す礼子。二人の気まずすぎる出会い
村上詩穂(多部未華子)は、居酒屋の店長である夫の虎朗(一ノ瀬ワタル)と、一人娘の苺(永井花奈)と3人で暮らす専業主婦だ。
「自分は2つのことが同時にできない」と思っている詩穂は、自ら専業主婦の道を選んだものの、娘としか話さない毎日に若干飽き飽きしていた。
「誰か大人と喋りたい!」と思った詩穂は、子育て支援センターで行われている「手遊び教室」に参加することにした。
そこで知り合ったのは、仕事と子育てを両立する気満々のママ・長野礼子(江口のりこ)だった。
最初こそ詩穂に対して気さくに話しかけてくれた礼子だったが、詩穂が専業主婦であることを知ると態度を一変。素っ気ない態度をとる。
さらに礼子は、他のママ友らと一緒になって「いまどき専業主婦になんかなってどうすうんだろうね?」「家事なんて片手間にできるのに」「時流に乗り遅れちゃったんじゃない?」「絶滅危惧種だよね」などと、詩穂の陰口を言うのだった。
たまたま礼子の陰口を聞いてしまった詩穂。聞かれてしまって”まずい!”という顔をする礼子。気まずくなった詩穂は、逃げるようにその場をあとにする。
後日。詩穂の住むマンションの隣の部屋に新しい住人が越してきたのだが、それがなんと、先日詩穂の陰口を言っていた礼子だったのだ…!
その日から、詩穂と礼子にとって気まずすぎる新生活が幕を開けたのである。
専業主婦の詩穂に救われる礼子
それから2年の時が経った。相変わらず詩穂と礼子は気まずいまま。道ですれ違っても、二人とも見ないふりを決め込む。
詩穂はというと、相変わらず娘の苺としか関わらない日々に悶々としていた。
そんなある日のこと。詩穂と苺が買い物から帰ってくると、玄関の前で子どもを前に抱え佇む礼子の姿があった。「ゲームオーバー」と呟く礼子をよそ目に、詩穂は特に声もかけず自分の家に入る。
洗濯物を取り込もうとベランダに出た詩穂は、礼子の息子・アツマサが、ベランダか手すりから身を乗り出して遊んでいるのを目撃。
あまりに危険だったので、思わず注意する詩穂。ところがアツマサは全然いうことを聞いてくれない。それどころか、落としたおもちゃを取ろうと、ベランダから飛び降りようとしている!
詩穂は「10秒そのまま止まってくれていたら、アツマサ君の勝ち!」と言い置いて、玄関前に佇む礼子に「アツマサ君がベランダに出てる」と声をかけに行く。
しかし、実はその時礼子は、アツマサに家を閉め出されてしまっていたのだった。
事情を聞いた詩穂は、仕方なく自分の家のベランダから礼子家のベランダに飛び渡り、アツマサを救出する。
さらに礼子から、「下の子の病院に行こうとしていた」という話を聞いた詩穂は、礼子が病院に行っている間、アツマサを預かっておくことに。
その甲斐あって、礼子は無事に下の子を病院に連れて行くことができたのだった。
仕事と育児家事の両立で疲弊しきっている礼子
礼子は疲れ切っていた。
夫から家事と育児を丸投げされ、会社では2児のママであることを冷ややかな目で見られる。完全にキャパオーバーになった礼子は、言うことを聞かないアツマサに怒鳴ってしまう。
家事も育児も完璧にこなしたい。それなのに理想通りにはいかない。そんな日々に疲れ切った礼子は、マンションの屋上へと向かってしまう。その様子をたまたま見かけた詩穂は、礼子を追いかけていく。
屋上に着くと、礼子が飛び降りようとしていた。思いとどまらせようと声をかける詩穂。
言葉をかけてくれる詩穂の優しさに、礼子は思わず心の内を明かしていく。詩穂も心の内を明かす。
抱えている苦労を吐き出し合ったことで、気持ちが軽くなった二人。翌朝には「おはようございます」と笑顔で声を掛け合う仲になったのだった。
『対岸の家事』第1話の考察と感想
弱みを見せ合える相手がいる。それだけで人生ってずっと楽になる。
仕事と家事を両立させたいのにできない。そんな礼子の苦悩を、とってもリアル描き出していた『対岸の家事』第1話。
★朝が来るのが怖い
夫が家にいない朝は、長女にご飯を食べさせつつ、長男に着替えをさせて、自分も仕事に行く準備。子ども二人を自転車に乗せ、それぞれ別々の保育園に送り届ける。
保育園に預けた長女が熱を出したと連絡が入れば、仕事を切り上げ急いで迎えにいく。職場の同僚たちから「またですか?」と白い目で見られながら。
職場でできなかった仕事は持ち帰る。子どもたちを寝かせて、家事を片付けたあとにこなすと言っていた。
「キャパオーバーです。すみません。できません」と言えたらいいけど、きっと礼子の性格上できないんだろうな。毎回迷惑をかけている同僚たちの手前「ごめん。終わらなかった~」なんて、絶対やっちゃいけないと思い込んでそうだから。
自転車で長女を迎えに行ったときも、ついでに長男も迎えにも行ってた。その理由について礼子は、「仕事を早退したのに長男を預けっぱなしにしておくことはダメなことだから」と言っていた。
礼子は、自分自身が作り上げた「○○しちゃいけない」という思い込みに縛られすぎている気がする。
保険証を取りに一旦家に帰ったら、鍵を持った長男がふざけて家の鍵を閉めてしまう。「ゲームオーバー」と思わずつぶやく礼子の燃え尽き感。漫画『あしたのジョー』で、ホセ・メンドーサに判定で敗れたジョーも驚くほどの真っ白さ。
詩穂の手を借り、なんとか長女を病院に連れていけたと思ったら、今度は会社から 『この資料を明日の朝までにチェックして下さい』という依頼のメールが届く。追い打ちをかけるように、旦那からは『今日も会社に泊りかも』というメール。これはムカつく。もし目の前にちゃぶ台があったら、ひっくり返してやりたい衝動に駆られそう。
だから、「おもちゃを片付けなさい」と注意しても、まるで言うことをきかない長男にイライラしちゃって、つい怒鳴ってしまった礼子の気持ち、すっごくわかる気がする。
怒鳴ったせいで泣き出す長男。連鎖のように長女も泣き出す。チンしたカレーをひっくり返して、壁や床にぶちまける。こんな状況ムリ。松本まりかばりのヒステリーを起こしかねない。
でも、きっと礼子はこれまでも、何度も同じような体験をしてきたはず。これが初めてのことではないと思う。いつもはこういう時、「わたしは完璧」「わたしは間違ってない」と心で唱えて、一人で踏ん張ってきたんじゃないかな。
でも今回は、ぷつんと糸が切れてしまった。「わたしは完璧…」という、消え入るような心の声が、もう踏ん張れないという礼子の気持ちを物語っていたように思う。
壁に飛び散ったカレーを拭きとる礼子。その背中は、ジョーと同じくらい真っ白に燃え尽きて見えた。
詩穂が止めなければ、礼子は確実に屋上から飛んでいたと思う。
「朝がくるのが怖い」と礼子は言っていたけど、その気持ちわかる。わかりすぎて、赤べこのごとく頷きまくった。しんどい時って、寝る前に「明日になったら、また大変な一日を繰り返さなきゃいけない」という絶望感に襲われる。眠ったら朝が来る。だから寝たくない。
礼子の場合は、家事と育児と仕事に追われる明日が来るのがしんどいんだろうな。
「誰か助けて」
小さな叫びには、どれだけ礼子が一人で抱えていたか、追い詰められてきたかが詰まっていた気がした。
ひとつ弱みを吐き出して気が楽になったのか、礼子は「自分の選択が間違ってたんじゃないか?と思うのが怖くて、詩穂を下に見て、自分は間違ってないと思おうとした」と、詩穂に追加で本音を漏らす。
詩穂もまた「わたしも怖かったんです」と語りだす。一日中子どもと二人だけでいると、孤独感と焦燥感に襲われるという詩穂。彼女もまた、専業主婦を選んだ自分が、間違っていたと思うのを怖いと思っていたんですね。
詩穂の弱音を聞いた瞬間、なんだかホッとした顔になった礼子。たぶん、”ツライのは自分だけじゃない”と思えたことで、心がふっと軽くなったんじゃないかな。
なかなか人に弱みなんて話せないもの。恥ずかしいから。ツラくてもツラいそぶりなんて見せないのが大人というものだ。でも、弱みを吐き出せず強がってばかりいると、自分自身を壊すことになりかねない。
壊れる前に、恥を捨てて「助けて」と声をあげたほうがいい。
自分の弱さを吐き出せたとき、心はグッと楽になる。自分が弱さを見せれば、きっと相手も弱さを見せてくれるはず。お互いの弱さを見せ合えれば、「な~んだ。みんな何かを抱えて生きているんだ」と、勇気が湧いてくる。
肩ひじ張らず、素直に話せる相手が一人でもいる。それだけで人は救われたりする。礼子は詩穂と出会って、詩穂は礼子と出会って救われたのだと思う。
暗い夜の闇で語らった二人。たぶん礼子は「朝が来るのが怖い」とこの日ばかりは思わず眠れたんじゃないかな。
雨露が光る、晴れ晴れとした朝が来る。それはまるで、二人の心の中を表すかのような、とても爽やかな朝だった。