2024年10月期の木曜劇場ドラマ『わたしの宝物』。
『昼顔』た『あなたがしてくれなくても』といった不倫ドラマを制作してきたスタッフが再集結して制作している作品です。
主人公・美羽を見ているとつくづく思うのです。
「ああ、自己犠牲をして生きているんだなぁ」と。
「美羽は生きづらそうだな」と。
僕自身も、
自分の気持ちを考える事よりもまず、人の顔色を伺ってしまうクセがあります。
本当は嫌なことでも、「イヤだ」と言えず、ヘラヘラ愛想笑いをしてごまかすクセもあります。
美羽と同じクセを持っているからこそ共感できるし、同時に自分を客観的に見ているようで嫌な気分にもなります。
美羽はなぜ、ハッキリしない態度を取り続け、自ら破滅の道へと進んでしまうのか?
それは「アサーション」ができていないからだと思うのです。
「アサーション」とは何か?
まずはそこからお話していきましょう。
もくじ
自分も他人も尊重する適切な自己表現「アサーション」
アサーションの第一人者である平木典子さんは、
著書『言いにくいことが言えるようになる伝え方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、
「人の自己表現」の方法は大きく3つに分けられると述べています。
1「非主張的自己表現(ノンアサーティブ)」
2「攻撃的自己表現(アグレッシブ)」
3「自分も相手も尊重する適切な自己表現(アサーション)」
平木典子さんは「アサーション」を身につけましょうということを訴えています。
同時に「非主張的自己表現」と「攻撃的自己表現」を極力しないようにしましょうということも訴えています。
ドラマ『わたしの宝物』を観ていると、
主人公・美羽は典型的な「非主張的な自己表現」をしてしまう人ということがわかります。
そこで今回は、「非主張的な自己表現」について詳しく解説していきます。
非主張的自己表現
「非主張的な自己表現」について、平木典子さんの著書から要点を抜粋してみます。
【非主張的自己表現】とは、自分の気持ちや考え、意見を表現しなかったり、しても伝わらないような、あいまいな言い方や、言い訳がましい言い方をしたりすることです。
消極的な態度や小さな声でいうことも含まれます。
また、自分を抑えて、相手を優先する気持ちや態度があります。
その結果、相手に自分の思いを理解してもらえないだけではなく、無視される可能性もあります。
このような言い方は、自分では、相手を立てて、相手に配慮しているつもりかもしれませんが、
「自分は二の次でいい」と、暗に「私の気持ちや考え、言っていることは取るに足りません。無視しても結構です」と伝えているようなものです。
自分の気持ちに不正直で、もちろん相手に対しても率直ではありません。
非主張的な言動をしている時は、
相手に譲ってあげているようですが、自信がなく、不安が強く、それを隠して卑屈な気持ちになっていることもあります。
また、自分から自分の言論の自由(人権)を踏みにじっているような言動になります。
どうして「自分を抑えて相手を優先してしまう」というような態度に出てしまうのでしょうか?
平木典子さんはこう述べています。
そのようになる理由は、
本人は自分の立場として遠慮する必要があるとか、自分の意見を言うと葛藤が起こって相手の機嫌を損ねる可能性があるので我慢しておこう、反論や違ったことを言うと排除されるのは怖いので、黙っておこうといった気持ちなどの影響があるでしょう。
また、社会的な常識や制約、立場などの影響もあり得ます。
波風を立てることや、相手から嫌われることを想像して、自分の気持ちを押し殺してしまうのですね。
それでは、
「非主張的な自己表現」をした後はどうなるのでしょうか?
平木典子さんいわく、
非主張的な言動をした後は、「自分はやっぱりだめだ」といった劣等感や、「どうせ言ってもわかってもらえないに決まっている」といったあきらめの気持ちがつきまといます。
また、相手に対しては、「譲ってあげたんだ」といった恩着せがましい気持ちや、
「人の気も知らないで」といった恨みがましい気持ちが残ります。
もし本当に相手を配慮し、尊重して同意したり、譲ったりしたのであれば、自分の決断でそうしているので、気持ちは爽やかで、未練は残らないと思われます。
一方、非主張的な対応をされた相手も、結果的に被害を被ります。
まず、同意してけれれば自分と同意見と思い、
譲ってくれたときは相手の思いやりをありがたいと思うでしょう。
よほど猜疑心のある人でない限り、それが素直な反応です。
ところが、そう受け取っていたら、あとで恨まれたり、軽蔑されたりするのではたまったものではありません。
また、優先されてばかりいると、相手は優越感や憐みの気持ちをもったり、逆に、従わせてしまったという罪悪感や苛立ちをもったりするかもしれません。
「非主張的自己表現」をしていると、
自分だけではなく、相手に対しても結果的に被害を与えてしまうことがわかります。
美羽の言動から分かる「非主張的な自己表現」
さてここで『わたしの宝物』の冒頭シーンを見ていきましょう。
・夜遅くに急遽「同僚を家に招く」と連絡を寄こす宏樹。
・美羽は急いで部屋を片付けて簡単なおつまみを作ります。
・内心、「夜遅くに急遽同僚を連れてこられるのは困る…」と思っている美羽は、それとなく宏樹に相談しようします。
美羽「私はいいんだけどね、時間もちょっと遅いし、ご近所さんにもあれかな~なんて」
宏樹「誰かに文句言われたか?」
美羽「ううん!べつに~!」
宏樹「文句があるのは美羽だろ」
美羽「そういう意味じゃなくて~」
宏樹「たった2時間くらいで」
美羽「…だね!これで宏樹の出世に繋がればいっか!」
(机からグラスを落として割ってしまう美羽)
美羽「あちゃ~ごめんね」
(美羽がグラスを片付けていることは無視して)
宏樹「あとお前さ、名前くらい覚えられない?篠崎ね。初対面じゃないんだからさ」
美羽「篠崎さん!覚えた!」
本音は「”私がイヤ”だからやめてほしい」のはずの美羽。
それなのに「私はいいんだけどね」と切り出します。
続けて「時間もちょっと遅いし、ご近所さんにもあれかな~なんて」と発言。
全体的に言い訳がましい言い方ですね。
また、宏樹から反対意見を言われると、納得していないにも関わらず「…だね!これが宏樹に出世に繋がればいっか!」と言って無理やり自分を納得させます。
自分の気持ち、意見を言わない美羽。
続いて、美羽が宏樹に「子どもをつくりたい」と話そうとするシーンを見てみましょう。
・夕飯を食べずに宏樹の帰りを待っていた美羽
・同僚と飲んで帰ってきた宏樹
美羽「おかえり。遅かったね~。飲んできたんだ」
宏樹「待っててって頼んだ?」
美羽「ううん。今朝、もしかしたら早く帰れるかもって言ってたから。すこし話したいこともあって…でも疲れてるよね」
宏樹「家でも気遣わなきゃいけねーのかよ」
美羽「ごめん!また今度でいいから!」
(無理してつくり笑顔をする美羽を見た宏樹は)
宏樹「笑うなよ!」
(リビングから出て行く宏樹)
美羽は宏樹のイライラしている姿を見て、自分の意見を隠して宏樹に迎合します。
まさに、「自分では、相手を立てて、相手に配慮しているつもりかもしれませんが、「自分は二の次でいい」と、暗に「私の気持ちや考え、言っていることは取るに足りません。無視しても結構です」と伝えているようなものです」という非主張的自己表現そのもの。
美羽は「自分で自分の言論の自由を踏みにじっている」わけです。
また、宏樹の「笑うな!」という発言からは、『優先されてばかりいると、相手は優越感や憐みの気持ちをもったり、逆に、従わせてしまったという罪悪感や苛立ちをもつ』という、非主張的自己表現をされた側の不快感を感じることもできますね。
また、宏樹は「ダメだとわかっているのに、妻を傷つけてしまう」というようなことを、喫茶店のマスターに話します。
宏樹のこうした気持ちはまさに、非主張的な自己表現が相手に与える影響の部分で書かれていた、
『優先されてばかりいると、相手は優越感や憐みの気持ちをもったり、逆に、従わせてしまったという罪悪感や苛立ちをもったりするかもしれません』
という箇所にぴったり当てはまりますね。
『わたしの宝物』から分かる”自己犠牲”で生きる苦しさ まとめ
自己犠牲をして相手に合わせてしまう美羽のクセを理解した上で『わたしの宝物』を観てみると、
美羽や宏樹の関係性をまた違った目線でみることができるかもしれません。