
脚本 | 詩森ろば |
脚本協力 | 畠山隼一、岡田真理 |
演出 | 宮崎陽平、嶋田広野、小牧桜 |
プロデューサー | 飯田和孝、中西真央、中澤美波 |
キャスト | 松坂桃李、吉岡里帆、迫田孝也、及川光博、常盤貴子、北村一輝 ほか |
放送局 | TBS |
放送開始 | 2025年1月19日(日) |
放送時間 | 21時~ |
ポイント①
「学園モノは視聴率が取れない」と言われて久しい昨今。
直近の学園モノといえば、7月期に放送された、『ビリオン×スクール』(フジテレビ系)が記憶に新しいですが、同ドラマは視聴率の取得に大苦戦。
結果的に平均視聴率3.3%で幕を閉じました。
また、日曜劇場枠での直近の学園モノは、2023年10月期放送の『下剋上球児』ですが、同ドラマも平均視聴率9.6%と、日曜劇場枠ドラマとしては低い数字を出してしまいました。
そんな厳しい状況の中、日曜劇場が再び学園モノに挑みます!
ポイント②
今作の主演は松坂桃李さん。
文科省官僚であり、私立高校の教師として赴任してきた御上孝を演じます。
共演には吉岡里帆さん、及川光博さん、常盤貴子さん、北村一輝など豪華キャストが名を連ね、申し分ないほどの豪華さ。
この記事では、『御上先生』の各話あらすじの紹介と、ネタバレを含む感想レビューを投稿していきます!
もくじ
『御上先生』 あらすじ&感想レビュー!(1話)
1話 あらすじ
東大卒のエリート文科省官僚の御上孝(松坂桃李)。
とある出来事を機に「日本の教育を変えてやろう」と文科省官僚になった御上だが、現実はほど遠いものだと気づく。
「考える」力を身につけるための教育改革も名ばかりで、日本の中枢は改革どころか、自分たちの保身ばかりを考えている。
さらには子供たちが未来を夢見る教育現場までも、大人の権力争いの道具に成り下がっていることに気づいていく。
そんな中、新たに設けられた官僚派遣制度によって御上に私立高校への出向が命じられる。
実質、エリート官僚にくだされた左遷人事…。
しかし御上は、制度を作っている側にいても変えられない、ならば現場から声をあげ、制度の内部からぶっ壊せばいいと自ら教壇に立ち、令和の時代を生きる18歳の高校生を導きながら、権力に立ち向かっていく。
御上孝は私立隣徳学院3年2組の教壇に立っている。
29人の生徒を前に、御上の授業が始まる。その場にいる29人の生徒は、それぞれの想いをもって、向き合っていくのだが、御上が投げかけるある問いが、波紋となり、生徒たちをつき動かすことになるーー。
引用元:Tver
1話 感想レビュー
★実際にその事件の主役になる可能性を誰も考えない。誰もが他人事な世の中。
ある日のこと。国家公務員試験中に受験生(21歳)が、同じく受験生とみられる人間に刺され死亡するというショッキングな事件が起こる。しかし、そんな事件に対してもおよそ自分とは無関係と決め込んでいる国民および文科省の人間たち。
そうした現状に対する御上(松坂桃李)の嘆きから物語はスタートする。
御上の嘆き
その殺人事件が起こったのが今日だったことは何かの運命なのか?
『教育を改革する』それがこの硬直する社会を変えるために必要だということは、誰もがわかっているのに。そのための本丸であるはずのここ(文科省)はこんな事件でも、やけにはしゃいで野次馬を決め込んでいる。
自分がその事件の主役になってしまう可能性を、実際になるまでは誰も考えていない。
君は今、社会のひずみの責任を一身に背負わされ、そこで一人きりだ。その孤独を僕は見捨てない。帰るべき場所を君も探している。
君たちの中に眠っている可能性が僕を導く。泥水をすする覚悟ならできている。あなたの声にならない叫びを聞こえないことにしない。
愛と憎しみはとても近くにあるということは、あなたに教えられた。僕は行く。
「自分がその事件の主役になる可能性を、実際になるまで誰も考えていない」という御上の言葉。そりゃそうだと思う気持ちもあれば、どんな事件も「学校が悪い」「家庭環境が悪い」「社会が悪い」と言って、みんなただ傍観しているだけでは何も解決しないということもわかっている。
★『女王の教室』を彷彿とさせる、核心を突くセリフ
文科省から派遣された御上は、3年2組の担任として教壇に立つ。すると生徒たちは、御上が急遽担任になったことへの不満をぶちまけはじめる。
御上は冷静に生徒たちの不満に対応していき、そして今度は逆に御上が生徒たちに問う。「君たち、自分のことエリートだと思ってる?」と。
御上は冷めた表情で話を続ける。
「隣徳学院は東大入学者数が県でトップの進学校だ。ここにいるほとんどの人が東大に行きたいと思っているわけだから、自分のことエリートだと思うのも当然だけど、エリートの本当の意味理解してる?エリートはラテン語で『神に選ばれた人』という意味だ。なのでこの国の人は、高い学歴を持ち、それにふさわしい社会的地位や収入のある人間のことだと思っている。でもそんなものはエリートなんかじゃない。ただの上級国民予備軍だ。」
松坂桃李さんの冷めた顔で淡々と世の中を語る様子はまるで、『女王の教室』(日テレ系)の天海祐希さんを彷彿とさせるものがある。
高い学歴も社会的地位も多額の収入も、それを持っているからエリートではない。それはただの上級国民予備軍。では本当のエリートとは何?いやはや難問だわ。
★受験という重圧
御上の言動に不満を持つ是枝(吉岡里穂)は、養護教諭の一色(臼田あさ美)に相談する。一色は是枝の気持ちに理解を示しつつも、御上の言動にも一理あると語る。
一色曰く、「だってさ、うちのようなお金持ちの子が来る学校でも、複雑な家庭の事情を抱えてる子はそれなりにいる。テストの点が自分の存在意義に直結しちゃう子、親からの過大な期待に押しつぶされそうになってる子。それでもみんな本当によく頑張ってる。話聞いてあげるくらいしかできないのが歯がゆいけど。なのに教育基本法ではいの一番に『教育は心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない』でしょ?80年間時代の変化なんてもろともせず、少子化やら受験戦争やら全く配慮されない健やか~な教育カリキュラムが組まれてる。成績も、家庭環境も、弱みを見せたら負けって環境で3年間。病むわよ心。病んじゃうわよ」とのこと。
いや~語る語る。あまりの長ゼリフにビックリした。臼田さんすごいっす。
「受験」というものに本気で挑まなかった人間からすると、正直まったくわからない世界のお話だ。
だけど、当事者たちが疲弊しているんだろうなということはなんとなく想像できる。
追い込まれた末、件の事件は起こってしまったのだろうか?
★バタフライエフェクト
ドラマのラストで御上は、報道部員の神崎が作成した「冴島先生の不倫記事」がきっかけで、例の刺殺事件が起こったのだと考えていると話しだす急展開に鳥肌がゾワワ~と立ってしまった。
神崎は、いきなり「君の書いた記事が、あの刺殺事件に関与している」と御上から言われて、「そんなわけないだろ」とつっぱねるのだけど、うん、それはそうだよね。そんなわけないって思うよね普通。
すると御上は、神崎に「バタフライエフェクト」の話を持ち出す。
「バタフライエフェクト」とは、小さな出来事がやがて大きな事件へと発展していくという意味の言葉。
つまり、神崎が書いた校内新聞の「不倫記事」という小さな出来事が、やがて受験生刺殺事件という大きな事件に発展していったということだけど、え?なにそれ?そんなことあるの?
そういえば、最近観たABEMA制作ドラマ『透明なわたしたち』も似たような内容だった。
あれも校内新聞での告発がきっかけで、最終的には『渋谷のスクランブル交差点で無差別刺傷事件』という大きな事件を引き起こしていた。
あれもまた「バタフライエフェクト」だったのか。
はたして冴島先生(常盤貴子)と刺殺事件の犯人・真山弓弦との関係性はいったい?神崎の記事が事件とどう関与しているのか?2話以降が楽しみでなりません。
『御上先生』 あらすじ&ネタバレ感想レビュー(2話)
2話 あらすじ
試験会場で起きた殺人事件と自分がリークした不倫記事は関係がある。
御上(松坂桃李)の言葉が気になった報道部の神崎拓斗(奥平大兼)は、隣徳学院を辞めた教師・冴島悠子(常盤貴子)に会いに行く。
事実が明らかになる中で、神崎の記事について生徒たちに討論させる御上。
同じ頃、文科省の塚田幸村(及川光博)と槙野恭介(岡田将生)が動き出す――。
殺人事件、不倫記事、隣徳、文科省、これらには一体どんな関係があるのか、そして殺人犯の目的とは――。
引用元:Tver
2話 感想レビュー
★『金八先生』はモンスターペアレント製造ドラマ?過激なセリフに痺れる
御上(松坂桃李)の言葉をきっかけに、神崎(奥平大兼)は自分が書いた冴島(常盤貴子)の不倫記事について考え始める。それこそ受験勉強そっちのけで。そんな神崎の様子を見た是枝(吉岡里穂)は、御上に「フォローが必要だと思うんですよね。大切な時期ですし」と相談する。
そんな是枝に対して御上は、「大切な時期って…ああ受験だからですか?それおかしくないですか?だって人生に大切じゃない時期なんてありませんよね」とひねくれた返答をする。
さらに続けてこんな話も。
「こんな話があるんです。とあるドラマの新シリーズが始まるたびに、日本中の学校が荒れて学級崩壊を起こす。あなたもたぶん憧れたあのドラマですよ」
あのドラマ…そう、『3年B組金八先生』(TBS系)のことですね。自社制作の人気ドラマをディスるなんて、強気だわTBSったら。
さらに御上は続ける。
「生徒のために奔走するスーパー熱血教師以外は教師にあらず、という空気を作ってしまった。保護者達の教師への要求はエスカレート。教育の理想を描いた教育ドラマが驚くなかれ、モンスターペアレント製造マシーンになるんです」
なんということでしょう。知らなかった…。学生時代に金八先生がやっていたドンピシャ世代なのに。
でもたしかに、先生というのは生徒のことを一番に考えてくれる存在というイメージはあったかもしれません。先生がえこひいきをしたり、生徒を馬鹿にする行為をしたら必要以上に軽蔑していた気がしますわ。
御上いわく、「以来40年以上、偉い先生はそのテレビシリーズに支配され続けています。そもそも考えてみて下さい。全国の高校教師は約25万人。その人たち全部がスーパー熱血教師になるのと、良い教師像自体を考え直すのと、どっちが現実的だと思いますか?学校も官僚も驚くほどの前例主義。それで成し遂げられる教育改革はないと思います」※前例主義=過去の似たような事例にならって処理すること。
イメージ通りの良い先生になろうと努力するよりも、良い先生のイメージを変える方がはるかに現実的。しかも先生の過重労働を軽減させることもできるわけですよね。
1話から思っていたけど、御上のセリフ鋭すぎやしないか?
★報道写真『ハゲワシと少女』に見る倫理
受験生刺殺事件の犯人・真山弓弦が、隣徳学院の元教師・冴島の子どもであることが判明。さらに神崎が書いた冴島の不倫記事も一緒に世に出回ってしまい、学校に取材陣が押し寄せる大騒動に。
3年2組では今回の件に関して話し合うこととなったのだが、この話し合いが「倫理の授業のようだなぁ」と感じました。
「新学期始まってから全く集中できなくて迷惑です」と愚痴をこぼす生徒がいれば、御上は「放置したから問題が深くなった。ここで放置したらもっと集中できなくなるんじゃないの?桜井さん弁護士になりたいんだよね?裁判でもお前は犯罪者だから黙ってろって言うのかな?」と諭す。
「神崎君がいるところで…」と口ごもる生徒がいれば、御上は「じゃあ本人がいなければいいの?」と問う。
自分たちが何を感じているのか?何が問題だったのか?どうすればよかったのか…?そうやって答えのない答えを必死に考える。まさに倫理。
極めつけは、御上が例に出した「報道における究極の選択として出てくる有名な写真『ハゲワシと少女』。
飢餓によって動けない少女の後ろで、今にも少女を食わんとするハゲワシの瞬間をとらえた1枚は、大きな話題となったが、同時に大きな批判にさらされたという。「シャッターを押す前に、この子どもを助けなければいけなかったのでは?」と。
難しい問題だ。しかもその写真のその後もなかなかエグい。
写真の少女はその後食料センターで保護され生き延び、写真を撮った人物は精神を病んで自死してしまったのだそう…。
つい一緒になってなにが正解だったのか考えてしまいました。
そして1話で御上が生徒たちに問うた質問。「なぜ辞めたのは女性教師で男性教師出なかったのか」を、ここで再び持ち出して持論を語りだす御上。
「今の3年が2年の時、担任の女性教師は是枝先生だけでしたよね?僕に替えられたのはそのせいだと思いませんか?生贄の羊なら下等な生き物がいいだろうと選ばれただけ。冴島先生も同じじゃないのか?」
つまり冴島は生贄だったわけですね。いったいなんの生贄だったのでしょうか?
神崎は御上の言葉を聞いて自分の気持ちを語りだします。
「ケビン・カーターがシャッターを押さなければ誰にも届かなかった貧困があった。だからシャッターを押すべきだと俺は信じてる。…でも、あの時の俺は、冴島先生を食おうとするハゲワシの正体を見ようとしなかった。だからこれからでも俺はそれを絶対捕まえる」と、言葉を選びながら語る神崎。
真実を突き止めようとする本気を感じる良いシーンでした。
★ハゲワシはだれか?
何度も職場にやってくる神崎に、しびれを切らした冴島。彼女は神崎に、「たしかに隣徳新聞のあなたの記事は私の人生を変えた。離婚もした。学校も辞めたわ。でもそれは溢れそうなコップに最後の一滴を落としちゃっただけ。責任感じられても困る」「もしこれから何があっても、あなたのせいじゃないから。もう絶対に来てはダメよ」と伝える。
含みのある言い方です。たんなる不倫ではないと匂わせているようにも感じますね。
新たに登場した怪しい人物。コンサル会社の代表、中岡。
過去に代議士の政策秘書を務めていたというこの男と、会食をする文科省の塚田(及川光彦)と牧野(岡田将生)。
霞が関と永田町を取り持つ「闇の仲人」と呼ばれている中岡は、「しばらくお会いしてない間に塚田さんに色んな方からのおねだりが溜まってましてね。一番は隣徳の件なんですが…」と話しだす。
おねだり…隣徳の件…怪しすぎる。
そして、官僚試験の受験生を刺殺した犯人・真山弓弦(堀田真由)の御上に対する態度が気になる。官僚だから御上の接見を承諾したという真山は、殺害動機についてこう語っている。
「受験会場で一番いけ好かない顔のやつを殺そうって思ってたんだ」「テロだから。もしくは革命?この世はゆがんでる。ぶち壊すには最大の効果が必要。違う?」
官僚に恨みを持ち、官僚試験で事件を起こすことで、この世のゆがみをぶち壊そうとしたということ。
母である冴島が教師を辞めさせられたことが、官僚への恨みをもつきっかけになったことは間違いないと思われます。となると冴島は、官僚と隣徳に関する事情を知ってしまい、辞めさせられたということだろうか…?
それにしても真山の正体が女性であることにビックリ!
すっかり男だと思っていました。
『御上先生』あらすじ&ネタバレ感想レビュー(3話)
3話 あらすじ
殺人犯・真山弓弦(堀田真由)と面会した御上(松坂桃李)は、事件がこの世に及ぼした影響について語る。御上はなぜ真山のもとを訪れたのか。 一方で、神崎(奥平大兼)は自分が書いた記事の真実を知るために冴島(常盤貴子)に食い下がるのだが…。 御上の存在が3年2組を徐々に突き動かしていくが、反発も当然生まれていく。対して御上はどのように生徒を導いていくのだろうか。 そして、ついに御上の過去が明かされる――、御上の前に度々現れる謎の青年の正体とは。
引用元:Tver
※ネタバレあらすじ
「地下鉄で傘を突き立てても、飛行機でビルに突っ込んで何千人もの人が亡くなっても、世界は一ミリも変わらなかった。なのになんでたった一人、人を殺したくらいのことで社会が変えられると思った?」
真山に事件を起こした理由を尋ねるところから始まった3話。
「そんな奴らと一緒にすんな」と歯向かう真山に御上は言う。「彼らにだって彼らなりの正義があった。その先に素晴らしい世界があると信じていた。君と何が違う?論理的に説明できる?誤解しないで。僕は君を裁きに来たわけじゃない。君の戦いが孤独だったことをたぶん僕は知っている。忘れられないはずだ。自分が殺した人の顔が」
一方、神崎は再び冴島が働くコンビニで待ち伏せする。仕事を終えて出てきた冴島に、「真山が冴島の娘である記事が出た」と告げる。それを聞いた冴島は神崎を自宅アパートに招く。
アパートで冴島は、「もう本当にやめた方がいい。あなたの人生はまだ長い」と神崎に言い聞かせる。しかし神崎は「長いからからこそ、今ちゃんと考えなきゃいけない。自分がやったことの意味を、知らないと」と食い下がる。
神崎はさらに、「不倫はあなたが望んでやったことですか?何か理由があったんじゃないですか?」と冴島に聞くが、冴島は「夫に暴力を振るわれ、行き場がなかった。それだけの話しよ」「記事は間違ってない」と言って神崎を追い返す。
一方、「受験に集中したい」という生徒の意向を御上に伝える是枝(吉岡里穂)。しかし御上は「あの事件を無いことにする方が危険です」と却下する。
「先送りにすればするほどその傷はさらに深くなる。だからこそ自分で探し出すことが必要なんです。自分が何に足掻いているのか、質問も答えも彼の中にしかないんですから」そう言って御上は神崎が自死するのでは?と案じるのだった。
文科省では、牧野(岡田将生)が「ゴシップ雑誌の記者が送ってきました」と、冴島の住むアパートを出入りする神崎の姿を捕らえた写真を局長の塚田(及川光博)に見せる。
「記者である神崎の父親に目を付けられるのは厄介」という塚田に、「止めときましょうか?」と言う牧野。
その頃、登校してきた神崎に質問する倉吉(影山優佳)。倉吉の言葉を遮ろうとする生徒たち。それに対して倉吉は言う。「まず、聞いてよ。ちゃんと最後まで聞くの、議論では大切だって教わるよ?…みたいなことを日本帰って来てからも言ってた。でもそれじゃダメなんだね。言いたいことは胸にしまっておかないと、空気読めない奴だって嫌われる。この国は本音と建前の国なんだって思い知らされてすごい怖くなった。だから、自分にとって大切なことほど飲み込む癖がついた。そんな自分嫌になった。でも、神崎の話聞きたいって思ったから」と。
放課後、冨永(蒔田彩珠)は東雲(上坂趣里)に頼まれ、離婚して別居している東雲の父親の住む家に行く。そこで東雲の父親が倒れているのを発見。すぐさま病院に運ばれた。
次の日の朝、東雲は父親が作ったという教科書を御上やクラスメイトに見せ、かつて中学校の教師だった父親が、その独自の教材で授業をしていて、文科省から学習要領義務違反を問われたと話す。そこから、現行の中学の学習指導要領がわかりづらいといった話に発展。
御上は東雲「じゃあどうしたらいい?」「考えて」と言う。
その日の放課後、クラスメイトの次元(窪塚愛流)の家に誘われた神崎と富永。次元は、高機能機器が並ぶ自身の部屋を二人に紹介する。そこで2002年のとある事件を見つけたことを報告する次元。
次元から得た情報を持って御上のもとへ向かった神崎。神崎は「これ誰?」と御上に見せる。すると御上は「22年前、学校の放送室で声明文を全校放送したのち、自死を選択した少年がいた。あまりに衝撃的な死は当時、後追いが出るほどの騒ぎになった。その少年の名は御上コウタ。僕の実の兄だよ」と衝撃的な発言をする。
翌朝、学校のファックスに怪文書が送られる。そこには「隣徳はくにのまほろば このくにに平川門より入りし者たち数多あり お前の不正をわたしは観ている 倭建命」と書かれていた。
3話 感想レビュー
★自分で考えることの大切さ
3話でも御上は「自分の気持ち」をあらゆる人たちに考えさせていた。もちろん、もれなく僕も考えてしまった。
犯罪者には犯罪者なりの正義がある
まず真山。真山に向かって御上は「彼ら(犯罪者)にだって彼らなりの正義があった。その先に素晴らしい世界があると信じていた。君と何が違う?論理的に説明できる?」と聞く。
「犯罪者にも犯罪者なりの正義がある」この話を聞いて僕が真っ先に思い出したのは、神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた大量殺人事件。
犯人の植松死刑囚は「障害者は不幸しか作らない」や「意思疎通できない障害者は殺そうと思った」などと言っていたそう。犯罪者にも犯罪者なりの”正義”があるんですよね。
言いたいことは胸にしまっておかないといけない国、日本
帰国子女である倉吉の言葉も考えさせられます。
「言いたいことは胸にしまっておかないと、空気読めない奴だって嫌われる。この国は本音と建前の国なんだって思い知らされてすごい怖くなった。だから、自分にとって大切なことほど飲み込む癖がついた」
日本は言いたいことを胸にしまっておく本音と建前の国ですよね。嫌われないために自分の気持ちは押し殺さなければいけない。まさにその通り。でもそうやって自分の気持ちを押し殺し続けていると、自分の本当の気持ちも忘れちゃうんですよ。
自分がどう思っているのか?何がしたいのか?そう自分自身を見つめなおす行為は生徒たちだけじゃなく、日本人全員に必要なことのような気がします。
何か主張するにも、何かを変えるにも、まずは根本的なことを知らなければいけない
東雲の父親の話しもまた考えることがたくさんありましたね。
文科省から指導が入っても独自の教材の使用をやめなかった東雲の父親は授業をさせてもらえなくなり、やがて自主退職。そのせいで父親と母親は離婚。その責任は文科省にあると考えている東雲は、御上に「そういうこと考えたことありますか?文科省が決めたルールのせいでめちゃくちゃになる家庭があるって」と聞きますが、御上は「ないかな。家庭の平和を守るために学習指導要領があるわけじゃないからね」と淡々と答える。それはそう。
その後、冨永は「根本的なことを知らないと何も言えないなぁと思って中学の学習指導要領を読んでみたんですよ。そもそも何かわからないと否定も肯定もできないじゃん?」と言い、クラスメイトの前で自身の考えを発表する。
現行のわかりづらい学習指導要領に問題があるのでは?という話題におよび、御上は「じゃあどうしたらいい?変えたいからみんなに問題提起したいんじゃないの?それとも僕に謝ってほしかっただけ?考えて」と東雲に言うんですよ。
何かを考えるにも、主張するにも、変えるにもまずは知らなければいけない。当たり前なんだけどできてない人が多い世の中だなと思うんです。特にSNS。わかった気になって的外れな主張をしたり、見当違いな人を攻撃したり。
東雲も文科省や御上に怒りをぶつけるのではなく、どうして父親は学習指導要領を無視し続けたのか?なぜ両親は離婚したのか?きちんと当事者に話を聞くことが先のように思えるのです。
★判明する真実。御上の兄がしたかった革命
いつも御上の前に現れる青年の幻影。その正体は御上の兄・御上コウタであることが判明しました。
世界を変えるために人を刺した真山。拘留中の彼女の姿と重ね合わせていたのが兄のコウタでしたね。つまり、兄もまた世界を変えるために自死を選んだということなのでしょう。
”一人の自死が革命を起こした”といえばアラブの春を思い出します。
2010年から2012年にかけてアラブ世界で大規模な反政府デモが発生しましたが、そのきっかけとなったのはチュニジア人の26歳青年の焼身自死でした。
青年は無職で、家族を支えるために屋台で野菜を売ろうとしていました。しかし、そこに警察官が来て彼の荷物を没収してしまいます。抗議の意味も込めたのでしょう。青年は屋台を奪われた市庁舎の前でガソリンをかぶって焼身自死をしてしまいます。
チュニジアは当時、ベンアリ氏による独裁政権が23年間も続いていて政治が腐敗していました。
青年の死は、腐敗した政治に対する国民の怒りに火をつけ、やがて大規模なデモへと発展。さらにその勢いはチュニジアだけにとどまらず、ヨルダン、エジプト、バハレーン、リビアなどアラブ全土へと広がっていったのです。
御上の兄がしたかったのは、アラブの春のように、自分の死をきっかけに同じ苦しみを持つ人間たちの怒りをたきつけ革命を起こすことだったのではないでしょうか?
しかし、そんなことをしたところで状況は何も変わらなかった。だからこそ御上は、兄とは違った方法で革命を起こそうとしているのかもしれませんね。
『御上先生』あらす&ネタバレ感想レビュー(4話)
4話 あらすじ
冴島(常盤貴子)と国家公務員採用総合職試験会場で起こった殺人事件の関係が公になり、神崎(奥平大兼)は責任を感じて冴島のパート先を訪れるが、すでに辞めた後だった。
そんな中、教室では御上(松坂桃李)の提案で、生徒たちがある事柄に関して議論を始める。
また、隣徳学院に届いたヤマトタケルを名乗る人物からの1枚のFAXについて、是枝文香(吉岡里帆)は自分なりの答えに辿り着き――。
引用元;Tver
※ネタバレあらすじ
牧野(岡田将生)は墓前で手を合わせながら過去の出来事を思い出していた。それは病院でのこと。牧野が見舞いにやって来ると、相手は窓から飛び降りていた ーー。
その夜。牧野は中岡と密会をする。そこで牧野は「塚田さんがいなくても話せる体制を作りたいなと。後ろ盾が必要なんです。ご存じのように塚田は自分のポジションをそれはそれは大切にしています。これから先、僕が汚れ役を引き受けざるを得ません。ぜひ中岡さんの力を貸していてただきたい」と中岡に話すのだった。
一方隣徳学園では、文化祭が数日後に迫っていた。
通常であれば受験を控えた3年生は文化祭の出し物はやらない。しかし東雲は「教科書検定のことを調べて展示したいと思っています」と出し物の提案をする。
提案書を見た御上は帰国子女の倉吉に「アメリカでは原爆投下のことをどう教わった?」と訊ねる。
倉吉は遠慮がちに「アメリカでは原爆投下は、仕方なかったと教えられます」と答える。
それを受け御上は東雲に、「原爆を肯定する教科書がある。なぜならそれはその国の正義だからだ。同じく人や国の数だけ正義があるんだ。自分の正義だけが通ると信じていたら誰とも話はできないよ」と伝える。
一方是枝は先日送られてきたFAXの意味を独自に解釈していた。
倭建命とは官僚のことで、平川門とは裏口のこと
後日。御上は学習指導要領に言及する出し物を学校側は認めないだろうと助言する。さらにクラスでは出し物を”やる人”と”やらない人”で殺伐としていた。
そこで御上は「ディベートをしてみよう」と提案する。
テーマは『文化祭で教科書についての展示を行うことに賛成か反対か』について。賛成派は櫻井。反対派は東雲。
いつも「受験以外の問題を持ち込むな」と言っていた櫻井だったが、実は教科書検定について大量に調べていた。その資料をもとに、いかに教科書展示が意義あるものか饒舌に語る。
一方反対派の東雲は、学習する人への配慮のなさや参加しない人への疎外感を理由に展示を反対する。
「やるべきことは見えたんじゃないか?」「そうだ。今日内内に知らせがあった。文化祭に文科省の滝沢副大臣、つまり政治家が視察に来る」という御上の言葉を聞いた3年2組は、教科書展示をやることになった。
教科書検定に踏み込んだ展示をしたことを政治や行政に知られたくない学園側は事前調査を徹底する。そんな監視の目を欺き展示を実行させるため、生徒たちは作戦を考える。
そして文化祭当日。学園側の阻止もむなしく、滝沢副大臣は3年2組の出し物を目にしてしまう。
憤慨して教室から出てきた滝沢副大臣に突撃インタビューをする神崎。
そしてまた送られてきた謎のFAX。そこには『我は平川門より入る人々に草那藝之大刀を振り落とす者なり お前の不正はまもなく白日のもとに晒される 倭建命』と書かれていた。
4話 感想レビュー
★アメリカでは原爆投下について「仕方ないことだった」
御上から「アメリカでは原爆投下のことをどう教わった?」と問われた倉吉。
彼女は言いにくそうに「アメリカでは原爆投下は、仕方なかったと教えられます」と答える。
途端にざわつく教室。倉吉は続ける。
倉吉「アメリカ側は、これ以上日本が戦争を続けるなら壊滅させるような攻撃、つまり原爆を落とすって通達してるの。アメリカには当時のアメリカ大統領の発言がこう書いてある。『このまま戦争を続ければ本土決戦は避けられない。アメリカの若者の犠牲をこれ以上増やさないためにも原爆投下は仕方なかった』って」
倉吉「でも教科書にはそう書いてあるの。ただ、こうも書いてあった『大統領の意見は正しかったと思いますか?あなたの意見と根拠を述べなさい』って」
男子「なんて答えたんだよ」
倉吉「答えられなかった」
男子「え、ありえないでしょ。倉吉日本人でしょ?」
倉吉「今みたいにみんな私のこと見てた。大した知識もない。しかもアメリカ育ちの私の意見が日本人全体の意見になっちゃうんだなって、怖くて答えられなかった。いまならもうちょっとマシに答えられると思う。日本はもっとはやく戦争をやめるべきだったし、アメリカはそれでも原爆を落としてはいけなかった」
被害を受けた日本では絶対そんなふうには教わらないですよね。いかに原爆が恐ろしいか、戦争が悲しいものかを強調していたと思います。
でもアメリカは違っていたんですね。原爆を落としたことは仕方ないことだったと正当化していたのです。
しかし、慰安婦問題に話を移せば日本もアメリカと同じことをしているわけです。
教育も教科書も国が違えばその内容は全く異なる。人や国の数だけ正義がある。当たり前なことなのにすっかり見落としている事実。それを御上先生は毎回教えてくれます。
★隣徳の秘密。それは裏口入学。
是枝が謎のFAXから読み取ったのは「倭建命とは政治家のこと」「隣徳に裏口から入ったが多数いる」「まほろばを漢字で書くと”真秀ろば”。理事長の名前はこの字を書いて”まさひで”と読みます」
つまり理事長は政治家と裏で繋がっており、学園に対する何かしらの援助の見返りに政治家の子供たちを裏口入学させていると考えられる。
もしかしたら冴島はその事実に気づいてしまったのかもしれない。だから学園から追い出されてしまった?
★学園と政治がクロスし始めたのは偶然じゃない。御上の撒いた種のおかげかもしれない。
文科省副大臣が文化祭にやって来たこと。副大臣に3年2組の展示を見せたこと。もっといえば3年2組に展示をやらせたこと。偶然のように見えて実は、これらすべて御上の思惑通りだったのかもしれない。
たとえば政治的繋がりのある隣徳学園の文化祭に政治家が視察に来ることは予期していたのかもしれない。さらに御上が隣徳学園に派遣されたのだから、彼の教室に政治家が訪れることも十分予測できる。
また御上は生徒たちに考えさせる習慣を与えた。その結果、神崎、富永、東雲、櫻井は自分の問題を考え始めた。頭の良い生徒たちは次第に”自分の問題”と”政治的な問題”とを結び付け始める。
きっときっかけは誰でもよかったのだろう。現在の教育や政治に疑問を持ってもらえれば。生徒たちの声をとして政治家に聞かせたかった。それが御上の狙いだったのではないだろうか?
さらに、そんな御上の思惑に牧野も加担している可能性が高い。
御上の仕掛ける革命が動き始めた。
『御上先生』あらす&ネタバレ感想レビュー(5話)
5話 あらすじ
神崎(奥平大兼)が御上(松坂桃李)と共に、ついに弓弦(堀田真由)と面会できることに…。明かされる弓弦の過去。心を閉ざす彼女に神崎はどう対峙するのか!?
一方、3年2組は高校生ビジネスプロジェクトコンクールに向けて動いている。
しかし、ここにも大人社会の権力の構図が影響していた。生徒たちは、忖度をもぶち破るプレゼンを目指して議論を深めていくのだが…。
そして、御上に突きつけられる試練とは…。
引用元:Tver
5話 感想レビュー
★自分の責任に向き合う神崎。自分の責任から逃げる真山。
5話で印象的だったシーンはなんと言っても神崎と真山が対峙する場面だ。
これまで神崎が真山に面会を申し入れても、真山はことごとく断ってきた。ところが、神崎が書いた手紙を読んだ真山は、「御上と一緒だったら面会する」と神崎に手紙を書く。
さっそく神崎は御上を連れて真山の面会に向かう。
神崎は、冴島から教師の職を奪い、さらに家庭を崩壊させるきっかけをつくったのは自分の責任だと謝罪。
真山は母親が家から追い出された後、父親からなじられ暴力を振るわれていた。その父親への復讐心から事件を起こしたのだった。
神崎は事前に預かっていた真山宛の手紙を読み上げる。それは真山に刺され亡くなったしまった青年の母親から手紙だった。
真山は「必要ないから!」と神崎に言う。しかし神崎はかまわず読み続ける。
手紙には、「許せない」としながらも、私たちもあなたと同じ境遇だから、なぜあんなことをしたのか理解できる」と書かれていた。
ガラス越しに向かい合う二人の罪は似ている。ともに両親や社会に不満を抱え感情任せに暴れた。結果、罪のない人様の人生を狂わせてしまった。
しかし。罪への向き合い方は二人とも正反対だ。
神崎が自分の罪と真剣に向き合うのとは対照的に、真山は必死に自分の罪から逃げようとしている。あまつさえ社会や両親にその責任を転嫁しようとさえしている。
そんな真山に神崎は、これからも自分の罪と向き合う覚悟を伝える。まるで自分の罪から逃げようとする真山を、絶対に逃がさまいとする意志にも感じた。
★自分で考えて問題に立ち向かおうとしだす3年2組の生徒たち
高校生のビジネスプロジェクトコンクールにも、霞が関だの永田町だのといった政治の息がかけれている現実。優勝校に偏りがあり、政治と一部の学園による忖度も疑われている。
理事長の言葉を借りれば、「生徒の自主性」とは名ばかり。その実体は官僚たちを刺激しない、ある程度お利口な企画が求められる。のだそうだ。
このビジコンに関して御上はほとんど口を出さなかった。
もはや御上が口を出さずとも、生徒たちは自ら考え、意見を出し合い、話し合っていた。癒着や忖度にも負けないくらい良い企画を出すために。
★金融の本来の姿を問う
ビジコンの発表を文字に起こしてみました。
高校生が少額を積み立てていく方式の堅実な、しかし社会の役に立つ金融商品の提案です。
①僕たちのファンドは投資をしてもらいたい企業を公募するところから始まります。その中から僕たち高校生が本当に未来に残したいと思える企業を専門家とともに選び、投資先にします。
②そして得た利益の一部を、教育が思うように受けられない地域への教育支援などに使用します。
③そして残りがリターンとして投資家に分配します。
金融マン同士で倍返しし合ってる場合ではありません。
学校も金融ドラマも、本当の意味で僕たちに金融の意味を教えてはくれない。
金融の本来の意味、それは信頼と助け合いです。お金とは信じることが形になったものなんです。僕たちは金融の一番最初に立ち戻りたいと思い、このプランを立ち上げました。
大人たちが忘れた投資の意味を問いかける。未来を創る金融投資。そういうプランを僕たちは考えました。
またもや自社制作ドラマ、今回は『半沢直樹』をディスっていましたね。
それにしても金融投資という言葉が広まって久しいが、おそらくおおよその人が「投資=資産形成」や「投資=金儲けのためのツール」としか思っていないはず。少なくとも僕はそう。
でもたしかに金融投資とは本来、未来に残したい企業への資金援助が目的。利益の分配も、助けてくれた投資家への企業側からのお礼だ。
それがいつしか、いかに痛手なくリターンがもらえるか?自分の懐を肥やせるか?といった私利私欲を満たす手段になり代わってしまったわけだ。
お金とは信頼を形にしたもの。金融とは信頼と助け合いを具現化したもの。他人から奪うことや自分の保身ばっかり考える現代人には耳の痛い話です。
『御上先生』あらす&ネタバレ感想レビュー(6話)
6話 あらすじ
週刊誌に記事が出て、生徒たちは御上(松坂桃李)の兄・宏太(新原泰佑)のことを知る。
「昔のことだ」と、生徒からの問いに答えない御上だが、御上の過去を知るある人物の後押しもあり、静かに口を開く。 果たして御上は何を語るのか――。
引用元:Tver
6話 感想レビュー
★生徒たちに向き合えていなかった御上。
兄の件について答えようとしない御上。そんな彼に向かって放つ生徒たちの強烈な言葉が、御上だけじゃなく、僕の心にも刺さりました。
椎葉「なんで男の先生に生理のこととか聞かれなきゃならないんですか?女友だちにだってなかなか言えないんですよ、そういうのわかってますか?自分は何もかも隠してるくせに、人にばっかり話せって言うの暴力です」
冨永「考えろ。考えて自分の頭で。それはいいんです間違ってない。教師と生徒ならこれ、大正解です。でも、人と人ならどうですか?私たち素っ裸です。服着こんでたら、御上が出してくる問題答えられない。みんな丸腰、丸裸で戦ってます。
それわかってます?なのに、なんであんただけ鋼の鎧着こんでるんですか?
御上がどんな思いで考えろって言ってたか、わからない奴いないです。なのに関係ねぇって鎧着たままカッコつけやがって。意味わかんないです。ちゃんと向き合ってください。
20年も昔のことって思えてないのは御上自身じゃないですか?」
他人のことは見えても自分のことは見ることができない。それが人間ってもんです。
御上はお兄さんの一件で、気づかないうちに人と接するとき、壁を作るクセがついてしまったのかもしれません。
でも、お兄さんの件を知っている養護教諭・一色の前ではとっても素直で柔らかい表情をするんです。きっと一色には隠し事がないからなんでしょうね。
隠し事を抱えたままだと相手に心を開けないし、相手も心を開いてくれないくれない。
これは本当にそう。
僕も、人に言いたくないことをいつも心の内に持っているので御上と同じ。だからこそ、生徒のセリフが僕の心にも突き刺さりました。
★御上の兄・宏太の自死の真相
中等部から高等部への進学にあたり、学校側は発達障害の生徒を落とした。その学校の対応に対する抗議の末の自死であったことが明らかになりました。
兄の自死について、御上はこう語ります。
「兄のような聡明な人間がどこで歪んでしまったのかと、考え続けていた。いつも自分のことよりも、立場の弱い人のことを考えていた。それが偽善でないと、誰よりも僕が知っていた。なぜなら兄は、僕の速度を優先できる人だったから。なにの僕はそんな兄の思いを汲み取ろうともせずに言ったんだ。『友達に言われたんだよ。お前の兄さんこの頃おかしいぞって』。兄に最後の絶望を与えたのは母じゃない。僕なんだ」
「今ならわかる。兄が歪んでたんじゃない。世界の形がいびつだっただけだ。兄はそのいびつな形の世界に合わせることができずに、死んだんだ」
このセリフを聞いた瞬間、なぜだか泣きそうになったんですよね。
どうしてだろう?
そう考えてみたら、ちょっと思い当たることがありました。
たぶん僕はもまた、いびつな形の世界に空気を読んで合わせてしまう側の人間なんです。
間違ったことを正そうとする人を捕まえて、「あの人最近ヤバくない?」「声をあげても意味ないのに」「偽善者」などと、みんなと一緒になって陰口を言ってる側の人間。
おかしいと思うことがあっても「仕方ないよね」で済ましてしまう弱い人間。
事なかれ主義が蔓延する日本では大多数の人が当てはまるんじゃないかな?
いびつな世界に合わせられない人の方がおかしい。いつの間にかそう思い込んでしまっていた自分が情けなくて、思わず泣いてしまったのだと思う。
これはたぶん、御上を通して日本国民に問うてるのだと思う。「おかしいって思うことを見過ごしたままでいいの?」と。
★御上が文科省に入り、隣徳に来た理由
お兄さんのような存在を繰り返してはならないと思った御上は、教育を変えるべく文科省に入省。しかし文科省は思考停止した組織だった。
御上を隣徳学園に呼んだのは養護教諭の一色だと判明。文科省・隣徳・永田町、繋がってるのは確実で、その証拠をつかむために御上は隣徳にやって来たのだった。
『御上先生』あらす&ネタバレ感想レビュー(7話)
7話 あらすじ
ヤマトタケルから3通目のFAXが届き波紋を広げる中、文科省では津吹隼人(櫻井海音)に悲劇が訪れる。目の当たりにした槙野(岡田将生)は…。
一方、椎葉春乃(吉柳咲良)が行っていたあることが判明し、学校は退学処分を下す。
心配する生徒たちに御上(松坂桃李)は、椎葉の問題が社会問題とも通じていることを提起する。 問題に向き合った生徒たちは、思いもよらぬ行動に出る。
引用元:Tver
7話 感想レビュー
★生理用品を万引きしてしまう椎葉
6話でも示されていたように、椎葉は生理用品に困っていた。アルバイトを掛け持ちしてもお金の心配はなくならず、ついに椎葉はドラッグストアで生理用品を万引きしてしまいます。
御上や是枝が駆け付け、ドラッグスストア側は今回のことは警察に通報しないと言ってくれた。
しかし古代理事長は、万引きによって隣徳のイメージに傷がついたとして椎葉の退学を示唆するのだった。
学校側が話し合った結果、椎葉の退学が決定する。
話し合いの中では椎葉が学校に無断でアルバイトをしていること、さらにその中にはマッチングアプリのサクラのバイトもあったことが問題視された。
マッチングアプリのサクラは詐欺罪にも問われかねないため、椎葉の退学は決定的になったのだという。
★日本の相対的貧困率は主要7か国で最下位
御上は、日本の相対的貧困率が主要7か国で最下位だと語ります。
等価可処分所得(収入から税金や社会保険料などを差し引いた手取り)が、生活必需品を買うのに困難とされる最低ラインのことを貧困線といい、日本の貧困線は127万円。
最新の調査で、日本ではおよそ6人に1人が貧困線を下回ると言われています。
相対的貧困率が高いということはつまり、その国が格差社会であるということ。
椎葉はまさに貧困に直面しているのです。
椎葉の両親は椎葉が幼いころに事故で亡くなり、以降、椎葉は和菓子屋を営む祖父母に育てられます。
しかし高校3年生になった頃、祖父の認知症が発症。和菓子屋の休業が余儀なくされ、椎葉の生活は一変してしまうのでした。
椎葉の言葉が印象的でした。
いっぱい心配してくれてたのもわかってた。でも、本当の本当に困っていると、自分の中の何かを鈍らせないと生きてるのが無理になるんだよ。相談できる人がいるって事にも気づけなくなる。
なのに生理がくる。わたし、生きてるんだなって思い知らされて。私はここで血を流してるのに、誰も気づいてくれないって苦しくって。私は私がここにいるってことを見つけてほしかったんだなって気づいたんです。
本当に苦しい時って、やっぱり声をあげることができないんですね。
僕はまだそこまでの苦しみを味わったことがないから分かりません。でも、自らの命を絶つ人って、傍から見るとそんなに辛そうには見えなかったって場合が多いというのを聞いたことがあります。
椎葉は貧困だけではなく、突然認知症の祖父の介護もしなくてはいけなくなり、急遽ヤングケアラ―にもなってしまったわけです。椎葉の苦しみは計り知れませんね。
★生徒たちが自ら動く
パーソナルイズポリティカル。個人的なことは政治的なこと。
椎葉の貧困は椎葉個人だけの問題ではなく、政治的な問題でもある。
生徒たちは、椎葉を退学処分しようとしている学校に対して抗議することに。
「椎葉の退学撤回」と、「入学後に家庭環境が悪化してしまった生徒に対する救済処置の制度を設けてほしい」という嘆願書と、学園中の生徒から集めた署名を古代理事長に提出。
協議の結果、椎葉の退学は撤回され、入学後に家庭環境や金銭事情が変わってしまった生徒に対する救済制度を設けることになったのでした。
★古代理事長はどんな悪事に手を染めているのか?
署名活動を行った生徒たちを称え、処分を撤回すると発表した古代理事長。
その様子を見た是枝は、「生徒たちのことより、結局自分が主役なんだなと思ってしまって。なんだか自分に酔ってるっていうか。なので私母と話してみようかと思ってます。古代理事長がなにか道を踏み外してるんじゃないかって」と言います。
古代理事長は自分の評判を高めるために、なにか良からぬことをやっていそうですね。
★冴島は謎の青年(高橋恭平)をかばっている?
不倫疑惑を頑なに晴らそうとしない冴島(常盤貴子)。
神崎は、元生徒の誰かをかばっているのでは?と思い至り、卒業していった先輩たちの卒業アルバムを調べる。
7話では結局、冴島が誰をかばっているのかまでは判明しなかったが、おそらく、金髪の青年(高橋恭平)であることは確実。
神崎は一度、刑務所の外で青年と鉢合わせているので、卒業アルバムの中に青年を見つけるのではないだろうか?
『御上先生』あらす&ネタバレ感想レビュー(8話)
8話 あらすじ
御上(松坂桃李)に対して文科省への帰還命令が下される。3年2組の成績が落ちてきたことを、保護者たちが問題視しているというのだ。生徒たちは反発し、御上を救う方法を考え始める。
そんな中、冴島(常盤貴子)の事件を調べていた神崎(奥平大兼)と次元賢太(窪塚愛流)は、ある人物に辿り着く――。
そして、神崎の記事など学校の機密をリークしていた人物が明るみになり、御上と是枝(吉岡里帆)は、攻撃を仕掛ける。御上と生徒たちによる、権力をぶち壊すための最終決戦が幕をあける。
引用元:Tver
8話 感想レビュー
「考える」教育を推し進めていく難しさ
社会問題を「自分のこと」として考えることが身についてきた3年2組の生徒たち。
しかし同時に、学力が低下しているという指摘を学校側から受けることになる。
”3年2組の学力低下に対する責任”という形で、御上を文科省に戻そうとする塚田。
テストの点数は下がっているけれど、学力が下がっている自覚がないという3年2組の生徒たち。
御上は生徒たちに「考える教育」を浸透させる難しさを伝える。
御上「なぜ考える教育が浸透しないのかというと、それは暗記力に頼った詰め込み式の教育を変えようとすると、一時的に見た目の学力、つまりテストの点数が下がるからなんだよね。
”ゆとり教育”から”脱ゆとり”がいい例だ。ゆとりの時間をうまく扱えなかったばかりか成績が下がったことに焦り、”脱ゆとり”ともっともらしいこと言って、詰め込み型の教育に戻した」
冨永「でも制度作ってるの御上たちじゃん」
御上「たしかにそうだね」
和久井「でも今の大人も”考える教育”受けられてない。つまり考える力のない大人ってことですよね?そんな大人が考える教育を作る。難しいと思います」
御上「中にいたからこそ思う。この国の教育制度を変えていくには、それこそ”考える力”が足りなさすぎるとね」
まさに”ゆとり世代”ど真ん中の僕。「ゆとりは失敗だった」と言われると無性にイラっとしたものだ。
そのイラッを言語化してこなかったけれど、まさに和久井や御上が言っていた言葉が言い得て妙だった。大人たちだって”考える力”がない。
考える力が身についてない大人たちに、そもそも”ゆとり教育”をうまく扱うことなんて不可能だったわけだ。
「ゆとり教育がうまくいかなかったのは大人のせいだろ!」と責任転嫁する気持ちでいるときは、なぜゆとり教育がうまくいかなかったのか?という問題を見ようともしていなかった。
他責思考でいることは、考える力を奪うなぁと改めて感じさせられた。
もし死に際に「あんた上級国民だったね」と言われたら…
冨永の言葉が胸に響いた。
冨永「もし死に際に、あんた上級国民だったねって言われたら、屈辱的過ぎるなって思ったんだよね。真のエリート?神に選ばれた者になりたいってわけでもないんだけど、たった一回の人生なんだったら、ちょっとは役に立ちたいって思っちゃってる自分もいてさ。受験は目的じゃなく手段。だけどっていうかだからこそ、それを知った私たちが東大に行くことには意味があると思う」
”上級国民”になれるはずがない僕でも、もしも死に際に「上級国民だったね」と言われたらと想像すると屈辱的に感じた。
それはたぶん、「上級国民」という言葉には、私利私欲を満たすためだけに権力を行使する狡猾な人間という意味あいが含まれているからなのではないだろうか?
言い換えれば「自己中心的だったよね」「他人のことは1㎜も考えてなかった人だよね」ということ。
死に際にそんなふうに言われたら嫌だ。
どうせなら「あんたは優しい人だったね」とか「いい奴だったね」と言われて見送られたい。
情けは人の為ならずとはよく言ったもので、冨永のようにたった一回の人生なんだからちょっとは役に立ちたいと思って生きる心が大事なのかもしれない。
本来持っている人間の力
御上は是枝に、「世の中で一番体力のある動物は、驚くなかれ人間なんです。42.195キロを人間以上に速く走る動物はいない」や、「人間の檻がある動物園があって、檻の説明にはこう書かれていたんです。”この世の動物の中で最強で最弱な生き物人間”と」という話をする。
御上の話を聞いた是枝は、「今わたし、最強の生き物を目の当たりにしている気がします」と答える。
きっと御上は、人間には「考える力」と「協力する力」があると言いたかったんじゃなないかな?と思います。
テストの点を上げるために、どうすればいいか考え、お互いの持っている勉強方法を教え合い協力する。3年2組の生徒たちは本来人間の持っている力をいかんなく発揮しているわけです。
一方で、教育のことをまともに考えることもせず、協力するどころか他人を蹴落とすことに必死な古代理事長や溝端先生、文科省の塚田を揶揄しているようにも聞こえたのは気のせいでしょうか?
冴島が庇っている元教え子・戸倉樹
やはり高橋恭平さん演じる謎の青年は、冴島の元教え子でした。
そして冴島が不倫記事の誤解を晴らさない理由も、この元教え子・戸倉樹が何かしらを起こしたからであることも明らかになりました。
「自分が不正入学ではないか?と疑う生徒がいる」という一色の発言。
相談してきた生徒とは戸倉なのではないだろうか?
不倫記事を記者にリークした犯人は溝端だった
真山弓弦の事件が起きた当初、真山の母親が隣徳の元教師で、しかも同僚と不倫していたというタレコミをマスコミにリークした人物がいた。
その犯人が溝端だった。
近所のコピー機からファックスを送信していたため、店番号が記載されていたので御上は気づいたようだ。
御上と是枝は二手に分かれて行動を起こす。
是枝は溝端とサシで話す。そこで、「これ以上不正に加担していいんですか?」というようなことを言って、溝端に残っているだろう教師としての良心に働きかける。
一方御上は、溝端が不倫記事をマスコミにリークした犯人であることを古代理事長に密告。「手を組んで、隣徳を日本のトップスクールにしていきませんか?」と言って、古代の自己顕示欲に働きかける。
『御上先生』あらす&ネタバレ感想レビュー(9話)
9話 あらすじ
「助けて」という富永蒼(蒔田彩珠)の元に向かった御上(松坂桃李)と次元(窪塚愛流)。彼らが目にしたのは、聡明で明るい彼女とは程遠い、苦しみを抱えた姿だった…。
さらに、冴島(常盤貴子)から語られる隣徳学院で起きた出来事や、戸倉樹(高橋恭平)が背負っていた苦悩も明かされ、つまびらかになり始める隣徳の不正。
そして遂に、3年2組の中で不正入学をした生徒の名前が判明し、ヤマトタケルが姿を現す。その人物は、本当に味方なのか、それとも敵なのか――。
物語は最大のクライマックスへ――。
引用元:Tver
9話 感想レビュー
大切な人を傷つけたくない。その想いが大切な人と向き合えなくさせてしまう。
冨永の弟は脊髄に先天性の疾患があって歩くことができない。軽度だけど知的障害もある。
弟は冨永がいると不安定になる。弟には夜8時になると部屋に戻るマイルールがある。だから冨永はゲームセンターで時間を潰してから家に帰るようにしていたのだった。
特に最近は弟の気性が荒くなってしまい、母親も手を付けられない状態だった。冨永は母親からSOSの連絡をもらい自宅に帰る。あまりにひどい弟の態度に冨永は思わず「いいかげんにしなさい」と言ってしまった。その言葉にかんしゃくを起こした弟は手に傷を負ってしまう。
怪我をした弟を見て冨永は、「血まみれになってるりゅうちゃんの手のひらを見たら、私にできることはここにいないことしかないのかもって」と思ってしまい、家を飛び出してきたのでした。
自分のことよりも弟のことを第一に考える冨永。
弟を傷つけたくないという想いから、知らず知らずのうちに弟と向き合うことが怖くなっていたのかもしれませんね。
冨永に事情を打ち明けてもらった御上が、「バカだろう。生徒に頼ってもらうのってこんなに嬉しいもんなんだな」と言うのですが、その時の御上の優しい声と表情が素敵すぎる…。こんなに素直な気持ちをさらけ出して接してくれる先生がいたらマジで最高だなぁ。
そしてそんな御上もまた、冨永と同じような想いからお母さんと向き合えていませんでした。だから御上は冨永をつれて、お母さんが入居している施設に行くんですね。お母さんときちんと向き合うために。
この御上とお母さんが向き合うシーンが本当に感動的でした。
兄の宏太が亡くなって以来、御上のことを「宏太」と呼んできた御上母。御上は彼女に優しくこう語りかけます。
御上「僕は孝だよ。宏太は死んだんだ」
首を横に振る母。
御上「母さんがそれでいいなら、それがいいなら、宏太でいたいと思っていたよ。でも嘘だなって。母さんが”宏太”って僕のこと呼ぶたび、息ができないくらい苦しくてね。向き合わないとって思ったんだよね。僕は御上孝だ。御上宏太は死んだんだ」
もう大号泣。
大切な人を傷つけないように自分の本音を隠す。そりゃあ苦しいよ。
他のどんなことから逃げられても、自分自身の気持ちからは逃げられないんだから。
ああ。御上がお母さんとちゃんと向き合えて良かったなぁ。
お母さんと向き合う御上を見た冨永は、逃げずにちゃんと弟と向き合う気持ちになったようで、
「今日は愛してるぜりゅうちゃんって言いたい。かわいくてかわいくて大好きなのにずっと言えなかったから。それが一番つらかったから」
と言うんですね。このセリフも泣ける。
大切な人を傷つけるのは怖い。だけど、だからといって自分の本当の気持ちを隠して、相手から逃げまわっていても何も解決しない。何も変わらない。
状況を変えるためには相手を傷つける覚悟で、自分が傷つく覚悟で向き合わなければいけないんだなと思いました。
冴島もまた御上や冨永と同じ
冴島もまた、弓弦や生徒を傷つけないためにと自分を犠牲にしていたんですよね。
冴島が戸倉の何をかばっているのかが判明しましたね。
戸倉は、高校3年生の時に試験問題を入手するために学校のシステムに侵入し、それがバレてしまった。
当時彼の担任だった冴島は、戸倉の処分撤回を学校に求めた。
学校側は戸倉の処分を撤回する条件として、冴島に不正入学の手伝いを依頼。
冴島が不正入学の手伝いをしていることを知った男性教師は、冴島に関係を迫った。
つまりラブホテルに入っていったのは不倫ではなく性被害だったことが明らかになった。
そんな冴島に対して戸倉は、「先生を尊敬してました。いつも生徒のことばかり考えて、自分のこと後回しにして。でも先生、後回しにしちゃいけないものを後回しにしちゃったんじゃないですか?」と言うんですよ。
戸倉はずっと、自分をかばったせいで冴島の人生を狂わせてしまい、真山弓弦を強行に走らせたのではないか?と悩んでいたようです。
皮肉なもので、「大切な人たちを傷つけないように」と冴島が一人で突っ走ってしまった結果、まわりまわってその大切な人たちを傷つけてしまっていたわけですね。
冴島が本当にすべきだったのは、戸倉や弓弦と向き合うことだったんでしょうね。
神崎と戸倉の訪問で、弓弦と面会する決心がついた冴島。
面会で弓弦から「事件の罪と一人で向き合う」と告げられた冴島はこんなことを言います。
「ちゃんと一人で償いたいのね。神崎君が、御上先生があなたにそれを教えてくれたのね。それなのに私は自分さえ犠牲になればってあなたを一人ぼっちにして。全部弓弦のため。全部生徒のため。そんな姿を見せ続けることが、母親としても教師としても一番ダメだってことを見ようともしなかった。そしてあなたを追い詰めた」
自分が面会に行けば弓弦を傷つけることになるかもしれない。
不倫ではなく性被害だったと訴えてしまえば戸倉を傷つけるかもしれない。
不正入学の事実を告発すれば、当事者生徒を傷つけてしまうかもしれない。
いろんな言い訳を並べて、本来向き合うべき人たちから逃げ続けてきた冴島でしたが、やっと彼らとも自分自身とも向き合えるようになったみたいですね。
だからこそ弓弦に「あと一回だけ会ってほしい」とお願いしたり、不正入学の証拠データを神崎に託したのだと思います。
いや~すごい。
冨永、御上、冴島と、言いたいことは共通していて、おそらく脚本家の詩森ろばさんは、「相手を傷つけることを恐れて向き合わないでいると、物事は何も解決しないよ。むしろ事態は深刻になっていくよ」ということを伝えたかったのだと思います。
古代理事長の教育の理想。その犠牲になる人々
古代理事長の人となりを、御上と是枝はバブーンに例えて話していたのが印象的でした。
是枝「ガゼルたちにライオンが来たぞって親切に教えるふりをして、油断したところで自分たちが子どもを食べる」
御上「古代理事長にとって教育の理想は嘘じゃないんでしょう。実際にライオンは来てるわけだし」
是枝「そうですね。そしてライオンに食べられるくらいならと、自分がガゼルの子ども食べる」
古代理事長は、敵を欺くために仲間を犠牲にしてしまうということですね。
さらに前のシーンでは、「(古代理事長は)理想を語る間に自分自身を騙しちゃうタイプ」なんていう話題も出てきていました。
なんだかちょっと、”カルト宗教”に近いものも感じます。
カルト宗教といえば、自分の思想が正しいと信じてやまない教祖がいて、そんな教祖の熱意に感化される信者たちがいて。
理想を実現するためには手段を選ばず、それこそ敵を欺くために仲間を犠牲にすることもあるでしょう。不正や犯罪をも犯してしまうことだってあるでしょう。すべては自分たちの歪んだ正義の名のもとに。
大人はみんな自分自身を騙して生きがち
自分の心を騙しちゃうっていうのは、古代理事長だけじゃなく、たいていの大人がやりがちですよね。
忙しいと、自分自身の気持ちや状況を見つめる余裕なんてなくなってしまいますから…。
過労で一度倒れたことをきっかけに気持ちが崩れてしまい、自死してしまったという文科省職員。また、同じように一度倒れたことをきっかけに、「仕事に戻ることが怖くなってしまった」と語る文科省の津吹。
彼らは”自分自身を騙して生きる”象徴なのかな?と思いました。
槙野もきっと、同僚が自死してしまったことをきっかけに、自分の心を騙して生きていることに気づき、「これ以上、自分の心を騙して生きる職員を増やしたくない」と思ったのではないでしょうか?
心が変わっていく溝端
溝端も自分自身を騙して生きてしまっていたけれど、元教え子の是枝に「教師とは何たるか」を諭されたことをきっかけに、目が覚めたんじゃないかな?と思います。
テストの成績を上げるため、互いに協力し合う3年2組の生徒をたちを見た溝端の表情が、彼の心の変化を物語っていましたね。
やはり倭建命は槙野だった!
これまで学園に怪文書を送っていた倭建命。その正体は予想通り、文科省の槙野だった。
やはり睨んでいた通り、御上と槙野は対立しているように見せかけて、実は裏で手を組んでいましたね!
「自分は不正入学では?」と悩んでいる生徒判明!
神崎が冴島から受け取った不正入学者リスト。その中に3年2組の生徒・千木良の名前が…!
一色に「自分は不正入学なのでは?」と相談してきた生徒もおそらく千木良なのでしょう。
不正を告発する準備は出そろいました。
最終回で、御上たちによって学院の闇が一掃されていくのでしょう。楽しみですね!
御上先生 あらす&ネタバレ感想レビュー(最終話)
最終話 あらすじ
隣徳学院と霞が関と永田町をつなぐ不正の証拠はそろった。 その不正には、千木良遥(髙石あかり)が巻き込まれていた。 大人たちが、自分の利権欲しさに踏みにじってきた子どもたちの未来を御上(松坂桃李)は取り戻すべく、生徒たちと考え、立ち向かっていく。 そして迎える卒業の日、最後の授業。 3年2組を待ち受けるのは、未来の光か、それとも――。
引用元:Tver
最終話 感想レビュー
自分の抱える問題と向き合う怖さ
★槙野
後輩を追い込んでしまい自死させてしまったことを悔やむ槙野。彼に語り掛ける御上。
御上「槙野のせいじゃないよって言うのは簡単だけど、言われても槙野ツラいだけだよね。この先ずっと、今槙野が思っている以上に苦しいと思う。支えるから。生きてくれ」
御上はきっと、お兄さんを自死に追い込んでしまった後悔とずっと向き合っている自分自身と、槙野を重ねたのでしょうね。
同じ経験をしているからこそ、かけてほしい言葉がわかる。「支えるから」って、こんなに心強い言葉はないですよ。
御上「自分の命を自分で消してしまう人がいる。そこまで追い込んでしまう人がいる。教育行政官の責任じゃないかって思うんだよね。線香をあげて自己満足とかありえない。ただの弔い合戦じゃ意味がないんだよ。日本の教育が生き残るための戦いだ」
きっと御上は、答えの出ないこの質問をずっと考え続けているわけですよね。
御上のパーソナルイズポリティカルは、すっと自死してしまったお兄さんの問題なんだなぁと感じました。
ここから育まれる男二人の友情も素敵。
生徒のことをただひたすら考える御上に対して槙野が、「そんなに可愛いか、生徒ってやつは?」と聞くと、御上はニコニコしながら「それがねぇ、可愛いんだよ~」と話すシーンが良い!
これまで先生然としていた御上ばかり見てきたから、夜景を見ながら戦友と酒を飲んで楽しそうに語らうギャップに、思わず「御上、お前もかわいいよ!」とツッコんでしまった。
★千木良
神崎から、不正入学の告発記事を出してもいいかと尋ねられた千木良。
千木良は是枝先生に本音をこぼします。
千木良「私が辞めて済む話なら迷わないです。でも妹がいるし、それに私の他にも在校生できっといるんですよね」
自分一人の問題ならまだしも、自分が告発記事の発表を許せば他の人の人生も狂わせることになってしまう。
でも、だからといってこのまま何事もなく卒業することも苦しい。
どう転んだってしんどい。逃げ場はない。こんな残酷なことってない。それでも向き合うしかないんですよね。
翌日。3年2組では溝端主任を招いて特別授業をすることに。議題は「考える力」について。
御上が「正しい戦争はあるか?」という例を挙げると、生徒たちはそれぞれの考えを口にしていく。しかし御上は厳しく生徒たちの矛盾点を指摘します。
もしも自分がこの授業を実際に受けていたらきっと、(え~何を言っても正解なんかないし、解決策なんか簡単に出てこないじゃん!考えるだけ無駄無駄~)と投げ出していただろうな。
そう思っていたら御上がズバっと言うんです。
御上「答えの出ない質問がこの世にはたくさんある。ハゲワシと少女、貧困とテロ、安楽死、それを考え続けることはものすごくキツイことだよね。考える力っていうのは答えを出すためだけのものじゃない。考えても考えても答えが出ないことでも、投げ出さず考え続ける力のことだ」
ごめんなさい。僕はすぐに考えることから逃げ出す癖がありますわ…。
御上の授業を受け、千木良は「私も一つ、答えの出ない質問を持ってる。それは、私のお父さんがやってはいけないことをやって、神崎がそれを知っているということなの」と話し出します。
「神崎あのねぇ、私嬉しかったよ。私がここにいることを無視しないでくれて。でも神崎。これから新聞記者になるんだよね。もし、私のような立場の人がいたときに、報道しないって選択肢あるの?
…苦しいよ。この話をしてるこの瞬間も、家族を売ってるって罪悪感で消えてなくなりたい。辛すぎて、息ができない。でも、わたしのためにこの事実をもみ消されても同じだけ苦しいのもわかってる。逃げ場なんてない。だとしたら逃げないしかない。
…だから神崎、私にはできないことをやって。報道は何かってことだけを考えて」
必死に自分と向き合って出した千木良の答え。
千木良にこんな残酷なことさせて…古代理事長はじめとした大人たちめ!
★溝端
千木良が必死に自分の問題と向き合う姿を見ていた溝端。彼は自分のやってしまった罪の重さを思い知ることになったんでしょうね。
溝端は不正入学の証拠を神崎に託します。
ああ良かった。過去一番溝端がカッコよく見えた瞬間だった。
★真山弓弦
母・冴島と面会した真山。冴島から「どんなことがあっても健康に暮らします。生きてあなたに会いたいから。弓弦も生きて、全ての意味で償ってほしい。命を奪ったことの意味を、本当の意味で知ってほしい。どれだけもだえ苦しんでも、取り返しのつかないことがあるってことを」と告げられ涙する真山。
おそらく、叱咤しながらも「いつまでもあなたを見捨てない」という母の気持ちが、真山の心に響いたんじゃないかな?と思います。
「わたし、殺しちゃった。殺しちゃったの」という真山の言葉には、「どうしよう。お母さんわたしとんでもないことをしてしまった。どうしよう」というニュアンスが含まれていたように思った。
真山はようやく本当の意味で、自分のしでかしたことと向き合ったんだなぁと感じましたね。
考える力を総動員して古代、塚田、中岡を陥落
神崎が自己嫌悪で苦しみながら書いた、不正入学の全貌を告発する記事。
その記事が掲載されることを古代、塚田、中岡に知らせる御上と槙野。カッコよすぎる!
「記事を差し止めろ!」と言う塚田に対し御上は、
「生徒たちが必死に考えて苦しんで出した結論です。不正入学をさせられた千木良さんが、自ら書いてくれと言った。神崎君が、満身創痍でそれに応えた。差し止めなんて選択肢あるわけがない」
と、お得意の真顔で答える。最高!
3人は、こっそり呼んでいた警察の御用となったのでした。うん。実にスッキリ!
ひとまず隣徳の闇は解決。しかし、まだまだ教育改革ははじまったばかり。
神崎の言葉に御上の伝えたかったことのすべてが詰まっていた
卒業式の日。
御上と二人きりになった神崎は、「考え続けるって全然自分に優しくないね。だけど絶対手放さないから。あと一つ。俺、死なないから。何があっても」と御上に宣言。
このセリフを聞いて、「ああこのドラマのすべてだなぁ」と思った。
答えのない質問を考え続けることは苦しい。それでも簡単に諦めず逃げ出さず考える。
神崎は真山弓弦と面会した時、彼女に「大丈夫。迷惑がられるくらい(冴島に)会いにいくから」と言っていました。
きっと神崎にとって考え続けることとは、”よく調べもしないで記事にして、人生を崩壊させてしまった冴島に対してどう償えるか?”なのだと思います。
神崎にとってのパーソナルイズポリティカルの象徴は、これからも冴島。
あえて報道の道に進み、同じ過ちを犯さないことが冴島への償いになると神崎は考えているのではないかな?
それと、真山弓弦から「被害者の母親に手紙を書いた」と聞いた神崎は、「いつか返事来るといいね」と声をかけます。
「そんなこと望んじゃダメなの」という真山に神崎は「それでも」と言います。
きっと「それでも」中には、真山に「期待することは希望になるよ。死ぬな」という意味が込められていたんじゃないかな?と想像しました。
御上から受け取った「考える力」というバトンを、他の誰かに繋いでいく。神崎のような生徒が少しずつ増えていくこと、その小さな積み重ねが、やがて教育を変える。社会を変えることになるのでしょう。
ラストシーンで御上兄が再び幻影として現れた理由
生徒たちに「どんなに苦しくても答えのない質問を考え続けて」と語った御上だったが、それは生徒に言っているのと同時に自分自身にも言っていたのだと思う。
兄のことは御上にとって答えの出ない質問の象徴。
御上もまた、どんなに苦しくても「教育改革」を考え続けていくということを暗示しているのだろう。